木を引く牛の物語
岩永サダさんが残し、久男さん保管。
玉屋の包装紙の裏に書かれている。
前文カタカナだったが、読み下しで書いてみた。
意味不明の箇所はそのままカタカナで記述した。
・は、改行の箇所。
・・・・(前略:書付の紙が破れてちぎれていた)・・・
哀れな最期を遂げられき
・その有様を姫君は・眺めて菩提を起こしける・
サカノ御釈迦に願をかけ・母の行方の恐ろしく・今より七年修業して・
追善供養をいたします・大恩教主釈迦如来・ビネンシューノ大悲にて・
母の行方を知らしめよ・菩提を授けたまえかし・朝夕御殿にキフーして・
霞の上の姫君は・氷を割って水被り・夜昼座る菰の上・二千五百二十日・
来る日も来る日も一心に・身を清めては経を読み・母の菩提を弔えり・
 いよいよミイズルその時に・妙なるお声のお告げあり・善哉善哉、姫君よ・
汝がコーインケンコーなり・汝が母は過ぎし世に・サンボ供養の善もなく・
この世に生まれし邪見にて・善根功徳の心なし・死ぬる今わの獄卒は・
地獄の使い受けしなり・然るに汝がコーインで・畜生にウガビケル・
明朝、木を引く七匹の・牛の中の四番目が・黄なるイケイロノ女牛・
これぞ汝が母なるぞ・重き材木くくりつけ・身に熱湯の汗をかき・
口には泡を噴きながら・ごーごー喉を鳴らしける・
 一目見るより姫君は・牛の体に取りかかり・ああ情けなや母上よ・
この有様はなにごとぞ・いかに業とはいいながら・打たれ叩かれ引きずられ・
さぞやお難儀でございましょう・今より七年その昔・御最期あそばすその時は・思い起こせば恐ろしや・鬼と人の使いうけ・地獄にそのまま落ちし身が・
仏のお慈悲に救われて・今は本堂の建築の・木を引く牛とはありがたや・
何卒母上、この次は・人間界に生まれ来て・仏の教えを一心に・
泣く泣く姫君伝えれば・牛は肝に聞こえたか・二度も三度も首を上げ・
玉なる涙をこぼしける・業は逃れることならず・牛の苦患の尽きざれば・
畜生道は逃れしと・尊きお釈迦のお告げあり・
 告げにまかせて本堂の・木をば毎日引かしける・姫もまたまた一心に・
涙ながらに経を読む・車の音や牛の声・聞くたびごとに姫君は・
思わず本堂に走りいで・牛に抱きつき母上よ・発汗発熱火の中の・
地獄の苦患に比ぶれば・畜生道は愚かなり・何卒ご辛抱あそばされ・
このイセイワ法を聞く・菩提を求めてくだされと・五臓六腑も裂けるほど・
見るたびごとに申しけり・
 聞くにつけても我々の・親や子どものこと思い・死したる様を思わぬは・
哀れというも愚かなり・
 その後まもなく牛は死ぬ・母の送りと丁寧に・姫は自ら入棺ンして・
それを火葬におこなわる・不思議なるかな立ち上がる・煙は空でむらさきの・
雲と変じて香りたち・絶えなく花が降り来たる・見るに泣かざる者はない・
これを姫君コーシンの・追善供養本堂の・木を引く功徳が現れし・
三悪道の苦を逃れ・天上界に生まれしと・今も残れしセイリョウ寺・
三月半ばのご開帳・牛の皮にて太鼓張り・額の毛にてカパンおり・
牛の姿のカケガクモ・みな我々の見せしめぞ・仏門道場のゴヨーモク・
ひきし功徳の姫君の・一心不乱の功徳にて・三悪道を逃れたり・
木を引く牛の因縁。

 
よろこびノート