多くの生き物は、脱皮しながら成長します。蟹は殻を脱いで、蛇は皮を脱いで、昆虫は、さなぎから抜け出て、成虫になります。脱皮するということは、大きな成長をするということです。殻を脱いだら小さくなるはずなのに、なぜ大きくなるのでしょう。たとえば、カニは、殻の内側の縦長の細胞が、脱皮直後は、縦に並んでいたのが、脱皮すると横向きになって、殻を脱ぐ前より、大きくなる仕組みだからです。
 でも、ヒトは脱皮しません。
少なくともそう思っていました。しかし、親鸞さまの生涯を考えているうちに、ヒトも脱皮しながら成長していくのだという確信が持てました。
 人の脱皮は、外見や内面の変化で、声変わりや初潮、男女の体つきの違い、体験を通しての目から鱗(うろこ)などが思いつきますが、仏教的に言えば、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天 という迷いの世界を潜り抜けていく過程で、精神的に変化していく世界観だと思います。
 親鸞さまの場合は、貴族の子、父母の相次ぐ死、比叡山での堂僧、法然様との出会い、流罪、越後や関東での暮らし、京都での晩年 と、環境が変化することによって、脱皮していかれたのではないかと思います。
 ヒトの脱皮で、一番、成長を促すものは、信心を獲得することではないでしょうか。信心をいただくということは、浄土真宗的には、二種の深信をいただくことだと思います。
 二種の深信とは、
一つは、自分は罪悪深重の凡夫であると自覚すること、
二つは、如来の本願が自分を目当てであったと自覚すること。

「凡夫というは、無明、煩悩、我らが身に満ちみちて、欲は多く、怒り、腹立ち、嫉み、妬む心、多く、隙なくして、臨終の一念に至るまで、とどまらず、消えず、絶えず」と親鸞さまは、おっしゃいます。(機の深信、一念多念文意より))

 また、「いずれの行も及び難き身なれば、とても地獄は一定住みかぞかし」(機の深信、歎異抄より)ともおっしゃいました。
 これは、修行も学問も修養も、自力のはからいでは、すべて助からないと知らされた親鸞さまの告白です。
 そして、「弥陀の五劫思惟の願を、よくよく案ずれば、ひとえに親鸞ひとりがためなりけり、されば、若干の業を持ちける身にてありけるを、助けんと思し召したちける本願のかたじけなさよ。」(法の深信)と、弥陀の誓願不思議に摂取されることを慶ばれたのです。

 島根の妙好人、浅原才市さんも、
「うちの嬶(かかあ)の寝顔を見れば、地獄の鬼のそのまんま、うちには鬼が2匹おる。女鬼と男鬼、あさましあさまし。」(機の深信)
そして、
「あさましがないならば、弥陀の浄土はいらんのに、あさましがある故に、こさえてもろおた弥陀の浄土を、ありがたや、ありがたや。」(法の深信)と悦ばれたのです。

 ひるがえって、私の脱皮は と考えると、???
 70歳を超えて感じることは、外に向かっていたものが、だんだん内向きになっていることでしょうか。
また、遠くのことより、身近なことを大切に思えるようになったことでしょうか。
 響く言葉は、伝教大師の「脚下照顧」
足元をしっかり見据え、転ばぬようにあせらずに、ぼとぼちと生きること、還るところは弥陀の光明土と見極めて、安心して歩んでいくことではないか、古希の脱皮のあとで、そんなことを思っています。

11月の行事予定(住職動静)

 9日(月) 松浦組組会議員研修会 15:00~明善寺
10日(火) 上山谷 高齢者サロン説法ライブ

11日(水) 栄町歌う会 13:30~
12日(火) 岩谷川内 高齢者サロン説法ライブ
13日(日) むりょうじゅ会 19:30~
23日(水) 本町 高齢者サロン説法ライブ
25日(水) 栄町歌う会 13:30~
27日(金)
 佐賀教区帰敬式
*受式予定者 法泉寺より7名

新シリーズ「地域の古いもの」
   お才腰かけ石(下内野)その1
下内野の切楠道路、吉永養魚場のそばの川(内野川と蔵宿川の合流したところ)を100mほど西にさかのぼった薮の中に小さな祠があり、その中に 直径30cmぐらいの丸い石が祀られています。(写真は、次号で掲載します。)
 唐船城とお才峠のほぼ中間地点にあるこの地は、唐船城もよく見え、お才峠も見える休憩するには、ちょうど良い地点です。言い伝えによるお才の不思議な物語は、思いがワープするように、佐世保の相浦、相神浦の丹後守源親に主君有田盛(境または左高)の謀反の心を知らせています。
 「印山記」という書物によると、山本右京の「忠臣二君に遣えず」という命をかけた思いが、臨月の妻お才と一子勝之助を引き連れて、大雪の中を相浦に向かわせるのでした。西ん岳の峠で産気づいたお才が、炭焼き(木こり)の女房の世話もむなしく、産後の出血のため亡くなってしまうのです。しかし、夫、右京が、相浦の飯盛城に到着する前に、お才の魂は、有田盛の謀反を知らせたのでした。
 このお才の物語が、西ン岳を挟んだ佐世保の柚木と西有田で語り継がれていることは、本当に不思議です。
(以下次号)


内野川沿いのこの道をたどって、西ノ岳を目指したと思われる。
遠景は、八天岳のお才峠あたり。
左の藪の中に、腰かけ石がある。


ヒトの脱皮(だっぴ)
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2020.11 住職:桃谷法信