人生は苦なり

 花のいのちは短くて、苦しきことの多かりき」
 放浪記を書いた林芙美子さんの短詩の一部です。
「人生不可解なり」と華厳の滝に身を投じた東大生の、藤村操。その後、4か月の間に185名もの若者が、後を追うように華厳の滝から身を投じています。太古の昔から、人生には苦しみや悩みがつきものです。悲しみや悩みの最中の人に向かって、
「お釈迦様は、そうおっしゃった」と,いくら説き聞かせても、その人の悲しみは、なくなりません。かえって苦しみや悲しみは、深くなっていくことでしょう。
 わが子を亡くして嘆き苦しむ母親に、お釈迦様は、おっしゃいました。
「あなたの悲しみを除いてあげましょう。これから、家々を訪ねて、これまでお葬式を出したことのない家を見つけてきなさい。」
 悲しみからぬけ出たいその母は、何百軒もの家々を訪ねますが、お葬式を出していない家など一軒もありません。疲れ果てた母親は、やっと気づくのです。いのちは生死一如だということに。そして、かけがえのないいのちだからこそ、今、生かされているいのちを精一杯生きていくことの大切さに。
 林芙美子さんの冒頭の詩は、最後の結びで、
「花のいのちは短くて、苦しきことのみ多けれど、風も吹くなり、雲も光るなり。」と書かれています。

 
これは、お釈迦様の四諦八正道をやさしく解説した詩だと思いました。
 四諦とは、苦諦(くたい)、集諦(じったい)、滅諦(めったい)、道諦(どうたい)の四つのあきらめのことで、逃げ出したり放棄したりする「あきらめ」ではなく、明らかにするという意味です。人生は苦であるという事実を受け入れ、その苦の原因は、諸行無常であることと人間の執着が集まったものであること、そして、その苦を滅することが悟りであるという真理に気づき、その悟りに至る道を実践することをいうのです。
 一人で生きているのではなく、苦しみや悲しみの中にこそ、楽しみや喜びの種が蒔かれているのだと気づくこと、そして、「風も吹くなり、雲も光るなり」という絶対他力の大いなるアミターバー、アミターユス(阿弥陀仏)の働きの中に包まれているのだという自覚こそ、苦しみを乗り越えられる智慧ではないかと思います。
 
 有田郷(伊万里市の一部を含む)の7月は、お盆です。
 盂蘭盆経に「お盆のいわれ」が説かれています。表紙の目連尊者の逸話です。
 釈迦十大弟子のひとり、神通第一の目連尊者は、母が餓鬼道に堕ちていることを知り、その原因が自分たち子どものために行動した報いであることに気づきます。その苦悩は、逆さづりの状態の苦しみ(ウランバーナ)に譬えられます。母が子育てのために行ったことと真逆の行いをしようと、安居(あんご:3月の啓蟄の日から7月15日自恣(じし)の日までの約3か月、外出をせずに、室内で修行や学問をする期間)の修行僧にお布施をし続ける(修行僧は、外出をせず、托鉢ができないので、ひもじい思いをしている)のですが、その暁(7月15日)に、母の姿が餓鬼道になかったことで、母は救われたと躍り上がって喜びます。(それが盆踊りの起源だともいわれていますが)、その目連さんの苦しみであるウランバーナが盂蘭盆(うらぼん)となり、お盆という言葉になったのです。
 目連さんの母だけでなく、人の親は、子育てをするために、少なからず、餓鬼のような行いをすると思います。浄土真宗では行いませんが、他宗の多くは、お盆の行事として、「施餓鬼(せがき)」をします。真言宗の家では、お盆の三日間、三度三度のお供えの献立も決まっているようで、施餓鬼の一つのお供えだと思います。
 ご先祖様にお参りするのは、そういう意味も含めての感謝と布施行の現れでしょう。
 苦悩の中で、いのちをつないでくださったご先祖様をしみじみと偲びたいと思います。
 往生浄土、還相回向(安養の浄土に還帰すと言えども、和歌の浦和の片男波のよせかけ寄せ掛け還らんに同じ)をいただく浄土真宗の考え方は、お盆の三日間だけ還ってきてくださるご先祖様ではなく、いつでもどこでも、そばにいてくださるご先祖様ですから、お盆も普段と変わりないお供えでいいのです。
 初盆をお迎えのご家庭では、親せきや知り合いから様々なお供物を頂かれると思いますが、それは、有難く頂戴し、迎え火や送り火は必要ありません。お供えも、普段と変わりなく、ご先祖様のおかげを思い、お念仏、申しましょう。

仏教的に食を味わう㉖ 薬膳

 テレビの通信販売番組は、健康食品やサプリメントの紹介で溢れています。それだけ、美容や健康に関心を持たれている方が多いのでしょう。黒大豆やニンニク、ブルーベリーやセサミン、色々な食品の持つエキスを詰め込んだように思わせる宣伝は、健康長寿嗜好の凡夫にぴったりなのでしょう。
 僕は、ほとんどサプリメントを服用していません。なぜなら、毎日いただく食事の食べ物に、すべてのサプリメントの要素が含まれていると信じているからです。何が入っているかわからない加工食品や化学合成されたサプリには、副作用が多々含まれていると思うからです。
 初夏、胡瓜やトマト、ナスやズッキーニが、大地のいのちをいっぱい提供してくれます。食べ物は、すべてのものに、薬効があります。
多くのいのちと皆様のおかげで、薬膳がいただける、有難いことです。深くご恩を喜び、有難くいただきます。



7月の行事予定(住職動静)
 
2日 敬徳高 小宮教諭来寺(雅楽について)
5日 有田町大野 高齢者サロン説法ライブ
6日 NPO法人べんじゃらきっず役員会
8日 退職教職員協議会役員会 伊万里生協会館
22-28日 初心者水泳教室指導 曲川小学校プール
30日 有田町丸尾高齢者サロン説法ライブ



盆経日程
10~12日 ご希望に応じてお参りいたします。090-4989-1768まで。

13日 初盆 上本、岩谷、迎、舞原、
    舞原団地、有田方面
14日 原明、下本、有田方面、楠木原
15日 黒川、北ノ川内、大山方面


*7月の月忌参りは、お休みです。 
     また、13日の「むりょうじゅ会」もお休みです。

*本堂や納骨堂は、いつも開いています。ご自由にお参りください。
  お茶の接待ができませんので、赤い冷蔵庫の中のものをお飲みください。

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一口法話 2019,7 桃谷法信