無言の行とよろこび 
    

 先月号で、円空さんが彫刻しておられる時は、黙々と作務をされるという話を書きましたが、黙々と作業をするということについて、浄土真宗ではどのように考えるかについて、書いてみます。
 行、つまり人間の行いには、必ず、良いことと悪いことが付いて回ります。開発と公害、自利と排他、いわば、両刃の剣です。

 
3月まで勤務していた有田小学校でも、無言掃除を実践されていました。余計なおしゃべりをせずに、黙々と働く、とても素敵な試みですが、全校中、音がしないのです。掃除の時間は、何か不思議な雰囲気でした。言いたいことが言えない状況というのは、心がしぼみます。

 仏教の説話に、「無言の行」という笑い話があります。

 ある日、3人の僧が無言の行を始めました。
初めのうちは、黙ってみんな続けていましたが、だんだんあたりが薄暗くなってくると、一人の僧が、「暗くなった。誰か明かりを点けなさい。」と言いました。
すると、もう一人の僧が、「今は、無言の行の最中だ。ものを言ってはならん。」と言いました。二人とも、無言の行に失敗してしまいましたが、私たちもこれと同じようなことを経験したことはないでしょうか。
 そして、極め付きは、3人目の僧の言葉です。
「最後まで口を開かなかったのは、わしだけじゃ。」

 最後の僧の言葉に、自分こそ行を成し遂げたという自分を誇る気持ちが表れています。

 仏教では、よろこびには、世間的なよろこびと、出世間的なよろこびがあると教えています。世間のよろこびは、煩悩的なよろこびで、名聞(みょうもん)、利養(りよう)、勝他(しょうた)が満足することです。
 名聞とは、世間の評判や名声を得ること。利養は、利欲をむさぼって、自分の身を肥やすこと。勝他とは、他人を打ち負かしたり、他人より優れていることを誇ったりすることです。私たちのよろこびは、この3つの中でのことが多いようです。












 無言の行をした3番目の僧の言葉は、勝他のよろこびが、口をついて出てきたということです。出世間を目指しながら、世間と同じ心しか持ち合わせしかなかったという笑い話です。

 名聞、利養、勝他のよろこびは、一時的で長続きしません。なぜなら、自分より名声のある人に出会ったり、自分より金儲けのうまい人に出会ったり、自分より優れた人に出会うと、よろこびが嫉妬に変わってしまうことが往々にして起ってしまうからです。
今日よろこんでいたものが、明日は、苦しみや腹立ちの種になってしまう、そうやって一喜一憂しているのが私たちの日常のような気がします。

 この世間のよろこびに対して、出世間のよろこびは、信心歓喜とか一念喜愛心というように呼ばれます。決して変わることのない持続するよろこびの心をいいます。しかし、それは、煩悩を離れたよろこびですが、煩悩をなくしてよろこぶことではありません。また、相手もよろこび、自分もよろこぶという自利利他円満と言われるよろこび方も出世間的なよろこびです。
 ところが、この出世間のよろこびは、なかなかできそうにもありません。名聞、利養、勝他の心は、いつも私たちの心から離れることはないからです。そのような自己執着の私を照らし出し、そんな私にスポットを当てて救う目当てのご本願を建ててくださったのが、阿弥陀如来でした。
 「よろこぶ」という言葉をひらがなで書いてきたのは、「喜ぶ」は、自分や世間一般、「歓ぶ」は身や心、「悦ぶ」は信仰や法、「慶ぶ」は公の席や祝い事などに使われているからです。みなさんは、どの漢字のよろこぶを使われるのでしょうか?
 いずれにしても、よろこべることは、ありがたいことです。お礼の言葉は、ナモアミダブツです。





















   仏像のまね  奈良の大仏

 2月26,27日ご門徒さん10名で本山参りをしました。
京都に着いたら、近鉄特急奈良線に乗って、奈良へ。興福寺、奈良公園、東大寺へおまいりし、久しぶりに大仏様を拝みました。
 大仏様のお名前は、毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)で、聖武天皇の天平勝宝4年(752年)のべ260万人が工事にかかわり、現在のお金で4657億円の建造費が費やされたといわれています。
 聖武天皇は「たとえ1本の草、一握りの土でも協力するものはそれを許し、無理矢理に搾取してはならない。」と詔を発し、僧、行基らの勧進によって、巨額の建造費や人足を集めたと言われています。仏教思想を浸透させることによって、人心の安寧を願われたのでしょう。別名廬舎那仏とも言い、サンスクリット語では、大日如来と同じ原語を持つ毘盧遮那仏は、華厳経に説かれる蓮華蔵世界の中心的な存在です。大仏様を拝みながら、大きな心持をしていこうと思いました。次の日は、西本願寺お朝事参拝、飛雲閣や国宝の書院見学、そして、鈴木君代さんの案内で、東本願寺のいろいろな施設を見学しました。東本願寺には、若者を引き付けるような色々な仕掛けがしてありました。しんらん交流館では、東日本大震災でバラバラになった絆をうずめようと、抱きしめるというテーマで、麻地の布に親子が抱き合っている絵の展示や命をテーマに版画や絵を描かれている岩田健三郎さんの作品の展示、絵本の読み聞かせなど社会的に開かれた活動を示されていました。


●お知らせ
 来月号から「仏教的食生活について」を連載する予定です。
これまで、仏像について、25回にわたって書いてきましたが、そろそろネタが尽きてきました。先月号で「塩」の話を載せたら、反響があり、食について関心があることに気づきましたので、新たに食について、身土不二や旬、季節に合わせた食事をすることについて、書いていこうと思っています。乞うご期待のほどを。


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一口法話

2017.4 桃谷法信

●4月の行事 

 9日 曲川神社さくらまつり
    法泉寺子ども雅楽出演
 13日 むりょうじゅ会(御文章披露)
       夜7時30分~
      
 14日 原明お講(百武博子さん宅