対食偈(たいじきげ) 
    

 食事をいただく前に、普通「いただきます」と合掌しますが、誰に対して、「いただきます」と言っているのでしょうか?
目の前にある食材は、料理、運搬、流通、生産、環境、食材そのもののいのち・・・無量のはたらきのおかげで、用意されたものです。
 浄土真宗では、食前の言葉を言います。
「多くのいのちと皆様のおかげにより、このご馳走を恵まれました。深くご恩をよろこび、ありがたくいただきます。」と合掌して唱えます。
 「仏教的に食を味わう」シリーズを連載しているうちに、食事について、少しずつ考えるようになりました。
「食」という字は、人と良という字が組み合わさってできています。人を良くするため、人が良くなるために食をいただくということができます。うまいとかまずいとか、栄養はどうとか、30種類以上組み合わせた食事をとりましょうとか、見た目とか、テレビの番組や雑誌にも満載され、ネットでは、様々なレシピであふれています、
 しかし、そこには、感謝の念が忘れられているように感じますし、まして、いのちをいただいているという慙愧の念は、ほとんど見られません。喰うとか食らうという言葉には、どうしても耐えられません。「いただく」(戴く)という気持ちを持ちたいものだと思います。
  さて、仏教各派は、それぞれの食事の言葉があり、キリスト教やイスラム教にも食前の祈りがあります。また。神聖なものに対しては、口にしない決まりもあります。イスラム教のラマダンは、仏教の精進と通じるものがあります。
 浄土真宗も、御正忌の期間や祥月命日には、精進料理でしたが、現在、どうでしょうか。

 徳川8代将軍吉宗の時代に、本願寺の能化(本願寺学林の学長。現在は勧学や龍谷大学の学長のこと)として、その才を発揮された日渓法霖(にっけいほうりん)師が、食に対する仏教徒としての基本姿勢を示しておられます。彼は、その当時きっての学僧、華厳宗の鳳潭(ほうたん)師との仏教問答は有名です。その鳳潭師から、浄土真宗には、食事の言葉はないのかと聞かれた時、即興で口上されたのが、「対食偈」(たいじきげ)です。

粒々皆是壇信(りゅうりゅうこれだんしん)
滴々悉是壇菠(てきてきことごとくこれだんぱ)
非士農非工商(しのうに非ずこうしょうに非ず)
無勢力無産業(むせいりょくむさんぎょう)
自非福田衣力(福田の衣力に非ざるよりんば)
安有得此飯食(いずくんぞこの飯食を得ることあらんや)
慎莫問味濃淡(慎んで味の濃淡を問うことなかれ)
慎莫問品多少(慎んで品の多少を問うことなかれ)
此是保命薬餌(これはこれ、保命の薬餌)
療飢与渇則足(飢えと渇きをいやせば、即ち足る)
若起不足想念(もし不足の想念を起こせば)
化為鉄丸銅汁(化して鉄丸銅汁とならん)
若不知食来由(もし食の来由を知らずんば)
如堕負重牛馬(負重の牛馬に堕するがごとし)
寄語勧諸行者(語を寄せて諸々の行者に勧む)
食時須作此言(食事すべからくこの言をなすべし)
願以此飯食力(願わくは此の飯食の力を以って)
長養我色相身(長く我が色相身を養い)
上為法門干城(上は法門の干城となり)
下為苦海津伐(下は苦海の津筏とならん)
普教化諸衆生(あまねく諸々の衆生を教化して)
共往生安楽国(共に安楽国に往生せん)

 この11行22句の偈文は、学問上、特に親しかった鳳潭師を京都西山の松尾山華厳寺に訪ねられた時にできたそうです。
 丁度昼時だったので、華厳宗のお坊さんたちの食事の作法をご覧になっていた法霖さんが、合掌のみで食事を終えられたのを見て、「食事の時のお経文はないのですか?」と問われたのに対し、鳳潭師は、逆に「あなたの御宗旨では?」と尋ねられました。急だったのと、真宗には食前の経文がなかったので、ちょっと困った鳳霖さんでしたが、真宗の恥をさらしてはいけないと思い、とっさに片手を頭に当てられました。そしたら智慧が脈々と湧き出てきて、上記の偈文となったそうです。(佐々木昭霖師著日渓法霖その逸伝と法語より引用)

 この法霖師の対食偈を基にして、浄土真宗でも食前食後の言葉ができました。
「我今幸いに、仏祖の加護と衆生の恩恵によりこのうるわしき食をうく。つつしみて食の来由を尋ねて味の濃淡を問わじ。つつしみて食の功徳を念じて品の多少を選ばじ。戴きます。」

「我今このうるわしき食を終わりて、心豊かに力身にみつ。
 願わくばこの身心を捧げて、おのが業にいそしみ、
 誓って四恩に報い奉らん。御馳走様」
 というものです。 
 天台宗の食事の言葉とよく似ていることと、少々難しいので、昭和58年に
「み仏と皆様のおかげによりこのご馳走を恵まれました。深くご恩をよろこび、ありがたくいただきます。(食前の言葉)」
{尊いお恵みにより、おいしくいただきました。おかげでごちそうさまでした。」という言葉に変えられました。そして、750回忌を機に、現在の食事の言葉になりました。
 食事の言葉を称えるとき、感謝の気持ちと慙愧の念を忘れないようにしましょう。

仏教的に食を味わう」は、お休みです。
(今月は、一口法話の対食偈に代えさせていただきます。)

●7月の行事予定 

 3日 松浦組布教大会ご法義相続会 出講
 5日 JA長崎大村年金友の会説法ライブ
 8日 土曜学校9:00~10:30
 9日 南無10周年ライブ(佐世保アルカス13:00~)

 13日 盆経(初盆、有田方面)
 14日 盆経(上本、原明)
 15日 盆経(舞原団地、下本、黒川、北川内
       楠木原、蔵宿、上内野、その他)
 *今年の盆経日程は、少々変則気味です。
  ご希望の日程があれば、ご連絡ください。
 *7月のむりょうじゅ会はお休みです。
 20日 東円蔵寺説法ライブ
 22日 佐賀教区安居(法泉寺から3名以上参加)

       
 

 


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2017.7 桃谷法信